小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が16歳で天涯孤独の身となった経緯は、単なる不運という言葉では片付けられないほど、複雑で悲劇的な家庭崩壊の結果でした。
彼がどのようにして居場所を失っていったのか、その過程を時系列で詳しく説明します。
1. 幼少期の母との別れ(4歳)
ハーンが2歳の時、母ローザとハーンは父の故郷であるアイルランド・ダブリンへ渡ります。
しかし、南国ギリシャ育ちの母にとって、寒冷な気候と排他的な親族、そして不在がちな夫(ハーンの父チャールズ)との生活は精神を蝕みました。
*母の帰国と精神病
母ローザは精神を病み、ハーンが4歳の時に彼を置いてギリシャへ帰国してしまいます。
その後、両親の離婚が成立し、母は別の男性と再婚。
ハーンは生涯、二度と母に会うことはありませんでした。
2. 父の再婚と見捨てられた息子(7歳)
父チャールズもまた、ハーンを置いてインドへ赴任しており、不在の間に別の女性と再婚します。
*新たな家庭からの排除
父は新しい妻との間に子供をもうけ、ハーンを「前妻の子」として疎んじるようになりました。
ハーンは大叔母(父の伯母)であるサラ・ブレネンに預けられることになります。
父との絆もここで事実上断絶しました。
3. 失明という悲劇と孤独の深化(16歳)
ハーンが大叔母のもとで教育を受けていた16歳の時、彼の人生を決定づける大きな事故が起きます。
*左目の失明
学校での遊び(綱投げの遊びと言われています)の最中、不運にも結び目のついた綱が左目を直撃しました。
この事故により彼は左目を失明し、眼球が白濁してしまいます。
*外見へのコンプレックス
鋭敏な感性を持っていた少年ハーンにとって、この身体的損傷は深い心の傷となりました。
彼は以降、写真を撮られる際も常に顔を横に向けるようになります。
この孤独と劣等感が、後に彼を「異界」や「はみ出し者」の物語へと向かわせる遠因となりました。
4. 経済的基盤の崩壊と完全なる放逐(16~19歳)
16歳という年齢は、ハーンにとって「心身の傷」と「経済的没落」が同時に押し寄せた時期でした。
*大叔母の破産
唯一の庇護者であった大叔母サラが、知人の事業失敗の保証人になっていたことなどが原因で破産します。
彼女はハーンを養う力を失いました。
*遠縁の男による追放
大叔母の資産を管理していた遠縁の男(ヘンリー・モリニュー)は、厄介払いとしてハーンをロンドンの貧民街やフランスの学校へ送り込みます。
しかし、最終的にはわずかな金を持たせ、19歳の彼を「二度と戻ってくるな」と言わんばかりにアメリカ行きの船に乗せ、放逐しました。
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■なぜ彼は「幽霊」に共感したのか
16歳を境に、ハーンは「国籍」「家族」「財産」「容姿」「視力」の多くを失いました。
彼が日本の怪談の中に見たのは、単なる恐怖ではなく、
「正当な居場所を奪われ、誰にも理解されずに彷徨う魂」の姿でした。
彼が怪談に寄せた深い慈しみは、自分自身を誰からも顧みられなかった「透明な存在」として重ね合わせていたからに他なりません。

