デント病は、まれな遺伝性の疾患です。主な症状は以下の通りです。
1.進行性の運動失調
デント病の最も顕著な症状は、小脳の機能障害によって引き起こされる運動失調です。
徐々に歩行障害、構音障害、書字障害などが現れ、日常生活に支障が出てきます。
2.白質変性
MRI検査で、小脳や脳幹の白質に病変(変性)が認められます。
3.知能低下
疾患の進行に伴い、軽度の知能低下が見られる場合があります。
4.振戦(手指振戦)
手指に静止時振戦が出現することがあります。
5.構音障害
話し言葉が次第にくっきりせず、発音が不明瞭になります。
6.眼球運動障害
眼球運動の障害により、視線の素早い移動が困難になる場合があります。
※症状は通常10代後半から30代にかけて発症し、徐々に進行していきます。
現在のところ、根本的な治療法はありませんが、リハビリや対症療法で症状のコントロールが図られています。
早期発見と適切な対応が重要となります。
デント病 腎臓
デント病自体は主に中枢神経系に影響を及ぼす疾患ですが、一部の患者さんでは腎臓にも障害が見られる場合があります。
デント病における腎臓への主な影響は以下の通りです。
1.低分子量タンパク尿
デント病の30~50%の患者で低分子量タンパク(レチノール結合タンパク、ビタミンD結合タンパク)の尿中排泄亢進がみられます。
これは近位尿細管の再吸収障害によるものです。
低分子量タンパク尿が長期に持続すると、以下のような影響が考えられます。
・タンパク欠乏
尿中に低分子量タンパクが多量に失われると、体内のタンパク質が相対的に不足する状態(タンパク欠乏)になります。
低分子量タンパクには生理的に重要な役割があり、欠乏すると様々な症状が出る可能性があります。
・栄養障害
低分子量タンパクには、ビタミンDやレチノール(ビタミンA)などの栄養素を運ぶ役割があります。
これらが尿中で失われると、ビタミンD欠乏性くる病や夜盲症などの栄養障害をきたすリスクが高くなります。
・免疫能の低下
低分子量タンパクには免疫グロブリンなどの重要な免疫関連タンパクも含まれており、これらが失われると免疫力が低下する可能性があります。
・腎機能障害の進行
持続的な低分子量タンパク尿は腎臓に過剰な負担をかけ、徐々に腎機能を低下させる一因となる可能性があります。
※そのため、デント病患者では定期的な栄養評価や腎機能検査を行い、必要に応じてタンパク質や栄養素、水分の補充を行うなどの対症療法が重要になってきます。
2.非常に緩徐に進行する腎機能障害
一部の患者では、年単位で徐々に腎機能が低下していく場合があります。
進行すれば末期腎不全に至る可能性があります。
3.腎石灰化、腎嚢胞
稀に腎実質の石灰化や嚢胞形成が認められる例もあります。
※腎症状は必ずしもすべての患者に現れるわけではありませんが、定期的な腎機能検査などで経過観察することが推奨されています。
早期から食事療法や体液管理などの適切な対応をとることで、腎機能障害の進行を抑える可能性があります。
デント病 原因
デント病の原因は、遺伝子の異常によるものです。
具体的には、CLCN5遺伝子やOCRL遺伝子の変異が主な原因とされています。
*CLCN5遺伝子
・クロライドイオンチャネル(Cl-/H+交換輸送体)をコードする遺伝子
・この遺伝子の変異により、近位尿細管のタンパク質再吸収能力が低下する
・常染色体性劣性遺伝形式
常染色体性劣性遺伝形式とは、以下のような遺伝のしくみを指します。
*常染色体(性染色体ではない22対の染色体)上の遺伝子が関与している
*正常遺伝子が2つ存在する場合は発症しない
*変異遺伝子が1つでも存在すれば、保因者(保因体質者)となる
*変異遺伝子が2つ存在する場合に発症する
つまり、両親がともに変異遺伝子の保因者であれば、子どもが発症するリスクが25%になります。
常染色体性劣性遺伝の典型例としては、嚢胞性線維症や鎌状赤血球症などがあげられます。
一方、常染色体性優性遺伝形式の場合は、変異遺伝子を1つ持っているだけで発症します。
ハンチントン病がこの例です。
デント病の一部は、CLCN5遺伝子の変異による常染色体性劣性遺伝形式をとるため、両親が保因者の場合に子どもが発症するリスクが上記の通りとなります。
*OCRL遺伝子
・ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸5-ホスファターゼをコードする
・この酵素は、様々な細胞内シグナル伝達経路を調節する重要な働きがある
・X連鎖性劣性遺伝形式
X連鎖性劣性遺伝形式とは、以下のようなしくみです。
*原因遺伝子がX染色体上にある
*母親が保因者(正常遺伝子と変異遺伝子を持つ)の場合
-息子が50%の確率で発症する
-娘が50%の確率で保因者になる
*父親が発症者の場合
-息子は全員正常
-娘は全員保因者になる
*発症には変異遺伝子が2つ(片方のX染色体が変異)必要
※つまり、X連鎖性遺伝では男性が発症しやすく、女性は保因者になることが多い点が特徴です。
デント病の一部がこの遺伝形式をとります。
他の例としては、赤緑色覚異常、へモフィリアA、ダンセール型筋ジストロフィーなどがあります。
これらの遺伝子変異により、小脳など中枢神経系の発達、機能に重大な影響が及ぶと考えられています。
※また、近位尿細管の機能不全から低分子量タンパク尿も生じます。
発症時期は一般に思春期後期から成人期にかけてですが、遺伝子変異の種類により多様性があります。
重症型の場合は小児期から症状が現れる場合もあります。
デント病は極めてまれな疾患ですが、家族内に発症例があれば遺伝カウンセリングや遺伝子検査を受けることが推奨されています。
デント病 治療
デント病に対する根本的な治療法はまだありませんが、対症療法や支持療法によって症状をコントロールすることが重要となります。
主な治療法は以下の通りです。
1.リハビリテーション
運動失調などの運動障害に対して、理学療法や作業療法、言語療法などのリハビリテーションが中心的な治療となります。
適切なリハビリにより、残存機能の維持や日常生活能力の向上が期待できます。
2.薬物療法
振戦や小脳性運動失調に対して、プロプラノロール、イソニアジド、クロナゼパムなどの薬剤が使用されることがあります。
症状緩和を目的とした対症療法です。
3.栄養療法
低分子量タンパク尿に伴う栄養障害を防ぐため、タンパク質、ビタミン、ミネラルの適切な補充が重要視されます。
場合によってはレチノール結合タンパク製剤の投与も検討されます。
4.水分管理
低分子量タンパク尿がある場合は、適切な水分管理により尿量を増やすことで、タンパク排泄を軽減する効果が期待できます。
5.腎機能モニタリング
定期的な腎機能検査を行い、必要に応じて食事療法や体液管理を行うことで、腎機能障害の進行を遅らせることが重要です。
6.合併症予防
嚥下障害や構音障害に対する対策、骨粗鬆症や変形性関節症の予防なども必要となります。
※症状は徐々に進行するため、集学的なアプローチと、長期的な経過観察が欠かせません。
根治療法の開発が望まれる疾患です。
デント病 致死率
デント病は致死率の高い疾患ではありませんが、進行に伴う合併症などにより、一部の患者さんでは命に危険が及ぶ可能性があります。
デント病の致死率や生命予後に関する主な点は以下の通りです。
・デント病自体は直接的な死因にはなりにくい。
・しかし、疾患の進行に伴い、以下のような致死的な合併症が生じる可能性がある。
①嚥下障害による窒息や誤嚥性肺炎
②末期腎不全
③栄養障害に伴う全身状態の悪化
④脳幹部の障害による呼吸障害
・発症が早期である場合は、生命予後が不良となるリスクが高い。
・適切な栄養管理、呼吸管理、感染予防などの支持療法が重要。
・致死率の正確な疫学データは限られているが、発症後30年程度で約25%の患者が死亡したという報告例がある。
※デント病の経過は緩徐ではあるものの、進行に伴う重大な合併症のリスクは否定できません。
患者一人一人に合わせた適切な管理と、合併症予防が重要となります。
発症から経過を見守り、状況に応じて集中治療を行うことが求められます。