多発性骨髄腫は、骨髄(骨の中の柔らかい組織)で発生する癌の一種で、主に中高年の成人に見られます。
以下は、多発性骨髄腫の一般的な症状についての情報ですが、個々の患者によって症状が異なる場合があります。
1.骨の痛みと骨折
多発性骨髄腫は通常、骨に異常な細胞が増殖するため、骨の痛みや骨折が起こることがあります。
特に背骨、骨盤、肋骨、頭蓋骨などが影響を受けやすいです。
2.全身の弱さと疲労
腫瘍が成長し、正常な骨髄の機能を圧迫することで、貧血や骨髄不全が生じ、全身の弱さや疲労感が現れることがあります。
3.貧血
腫瘍が骨髄を侵すと、正常な血液細胞の生成が妨げられ、貧血が引き起こされることがあります。
貧血により、疲労感や息切れが生じます。
4.高カルシウム血症
多発性骨髄腫の進行により、骨が破壊されるとカルシウムが血中に放出され、高カルシウム血症が発生することがあります。
これにより、吐き気、嘔吐、脱水、意識障害などが生じる可能性があります。
5.腎機能の障害
腫瘍やその生成物が腎臓に影響を与え、腎機能が損なわれることがあります。
これにより、頻尿、血尿、腰の痛みなどが現れる可能性があります。
6.感染症
正常な免疫機能が妨げられるため、多発性骨髄腫の患者は感染症にかかりやすくなります。
※多発性骨髄腫は進行性の病気であり、症状は進行するにつれて悪化することが一般的です。
上記の症状が見られた場合、専門医による診断と治療が重要です。
治療の選択肢には化学療法、放射線療法、造血幹細胞移植などが含まれることがあります。
多発性骨髄腫 原因
多発性骨髄腫の正確な原因は不明ですが、以下は多くの研究が示唆しているいくつかのリスク因子と関連している要因です。
1.遺伝
遺伝的な要因が多発性骨髄腫の発症に寄与する可能性があります。
兄弟姉妹や親から多発性骨髄腫を発症した家族がいる場合、その個人の発症リスクが高まることが報告されています。
2.年齢
多発性骨髄腫は通常、中高年の成人によく見られます。
60歳以上の患者が最も多いですが、若い成人や高齢者でも発症することがあります。
3.男性性別
男性の方が女性よりも多発性骨髄腫にかかるリスクが高いとされています。
4.アフリカ系の人種
アフリカ系の人々において多発性骨髄腫の発症が相対的に高いことが報告されています。
5.モノクローナルガンマパス法(MGUS)
MGUSは、多発性骨髄腫の前駆状態の一つであり、一部の患者がMGUSから多発性骨髄腫に進行することがあります。
MGUSは、異常な血液中のプラズマ細胞が検出される状態で、これが進行して多発性骨髄腫になることがあります。
6.環境要因
放射線や特定の化学物質に長期間曝露された場合、多発性骨髄腫のリスクが増加する可能性がありますが、これらの要因の影響はまだ完全には理解されていません。
※なお、これらの要因が多発性骨髄腫の発症にどの程度寄与するかは個人差があり、一因だけでなく複数の要因が組み合わさって発症することが考えられています。
また、これらのリスク因子があるからといって必ずしも多発性骨髄腫になるわけではなく、逆にこれらの要因がない場合でも発症することがあります。
多発性骨髄腫 治療
多発性骨髄腫の治療は、患者の年齢、一般的な健康状態、病気の進行度などに基づいて、個々の症例に合わせて決定されます。
治療の主な目標は、症状の緩和、病気の進行の遅延、そして患者の生活の質を向上させることです。
以下は、一般的ないくつかの治療オプションです。
1.化学療法
化学療法は、抗がん剤を使用してがん細胞を攻撃し、増殖を抑える治療法です。
多発性骨髄腫の場合、一般的には複数の抗がん剤の組み合わせが使用されます。
2.造血幹細胞移植
患者の自己または他者から採取した幹細胞を使用して、高用量の化学療法や放射線療法を行った後、骨髄に再導入する治療法です。
これにより、正常な造血細胞が再生されます。
3.免疫療法
免疫療法は、患者自身の免疫システムを活性化させ、がん細胞を攻撃するよう促す治療法です。
モノクローナル抗体療法や免疫チェックポイント阻害薬などが使用されることがあります。
4.標的療法
特定のがん細胞を標的とし、それに対して直接作用する薬剤が含まれます。
例えば、プロテアソーム阻害薬や免疫修飾薬があります。
5.放射線療法
特定の部位に集中的な放射線を照射し、がん細胞を破壊する治療法です。
特に骨折や痛みがある場合に使用されることがあります。
6.対症療法
症状の緩和や合併症の管理のために、鎮痛剤、抗生物質、抗骨吸収薬などが使用されることがあります。
※治療計画は患者の具体的な状態によって異なります。
治療の選択と進行は、患者と医師との継続的な協力と相談に基づいています。
治療の結果は患者によって異なり、一部の患者は寛解し、他の患者は症状の進行を遅らせることができる一方で、完全な治癒が難しい場合もあります。
最新治療の情報
近年、多発性骨髄腫の治療において、新たな薬剤や治療法が開発、導入されています。
その中で注目されているのが、プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗体薬、CAR-T細胞療法などです。
1.プロテアソーム阻害薬
がん細胞のタンパク質分解を妨げることで、がん細胞の増殖や生存を阻害する薬剤です。
代表的なものにボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブなどがあります。
2.免疫調節薬
免疫系の細胞に作用して、がん細胞の増殖や生存を阻害するとともに、免疫系の活性化を促す薬剤です。
代表的なものにサリドマイド、レナリドミド、ポマリドミドなどがあります。
3.抗体薬
がん細胞の表面に特異的に結合することで、がん細胞を直接攻撃したり、免疫系の細胞にがん細胞を認識させたりする薬剤です。
代表的なものにダラツムマブ、エロツヅマブ、イサトキシマブなどがあります。
4.CAR-T細胞療法
患者の自分のT細胞に、がん細胞に結合するキメラ抗原受容体(CAR)という遺伝子を導入して、がん細胞を攻撃する能力を持たせる治療法です。
現在、多発性骨髄腫に対するCAR-T細胞療法は、臨床試験の段階にあります。
多発性骨髄腫 予後
多発性骨髄腫の予後は、病期や染色体異常などによって異なります。一般に、病期が進むと予後が悪くなります。
病期は、血液検査で測定できる血清β2ミクログロブリン(β2MG)値と血清アルブミン(Alb)値によって分類されます。
β2MGは骨髄腫細胞の量や活動性、腎機能障害の程度を反映し、高いほど予後が悪くなります。
Albは正常な免疫グロブリンの量を反映し、低いほど予後が悪くなります。1
国際病期分類(ISS)では、以下のように3段階に分けられます。
・I期:Alb≧3.5g/dLかつβ2MG<3.5mg/L
・II期:I期でもIII期でもないもの
・III期:β2MG≧5.5mg/L
I期の場合、中央値で62ヶ月の生存期間が見込まれますが、III期の場合は29ヶ月と半分以下になります。
また、染色体異常も予後に影響します。
特に、17番染色体の短腕(17p)の欠失、4番と14番染色体の転座(t(4;14))、14番と16番染色体の転座(t(14;16))などは、予後不良の因子とされています。
これらの染色体異常は、FISH法という遺伝子検査で調べることができます。
最近では、これらの病期分類と染色体異常に加えて、血清FLC(フリーライトチェーン)比率も予後予測に用いられるようになりました。
FLCは骨髄腫細胞が作る異常な免疫グロブリンの一部で、血液中に溶け出しています。
FLC比率は、正常なFLCと異常なFLCの比率を表し、100以上の場合は予後が悪くなります。
改訂国際病期分類(R-ISS)では、以下のように3段階に分けられます。
・I期:ISS I期かつ17p-やt(4;14)やt(14;16)がなくてFLC比率が<100
・II期:I期でもIII期でもないもの
・III期:ISS III期かつ17p-やt(4;14)やt(14;16)があってFLC比率が≧100
R-ISS I期の場合、中央値で77ヶ月の生存期間が見込まれますが、III期の場合は26ヶ月と3分の1以下になります。