妊娠糖尿病の診断基準については、以下の点が重要になります。
1.空腹時血糖値
空腹時血糖値が92mg/dL以上の場合、妊娠糖尿病と診断されます。
2.75g経口ブドウ糖負荷試験
・空腹時:92mg/dL以上
・1時間値:180mg/dL以上
・2時間値:153mg/dL以上
上記のうち1つでも該当する値があれば妊娠糖尿病と診断されます。
※この基準値は2013年に厚生労働省から発表されたものです。
以前は異なる値が使われていました。
妊娠糖尿病はできるだけ早期に発見し、食事療法や運動療法、必要に応じてインスリン療法を行うことが重要とされています。
適切な管理をしないと、母体に糖尿病性合併症が起こる可能性や、新生児の過剰体重や低血糖などのリスクが高くなります。
定期的な検査で早期発見に努め、医師の指導の下で適切に管理することが推奨されています。
妊娠糖尿病 胎児 影響
妊娠糖尿病が胎児に及ぼす主な影響は以下のようなものがあります。
1.巨大児のリスク増加
母体の高血糖により、胎児に過剰な糖分が供給されると、インスリン分泌が亢進し、胎児が過剰に栄養を蓄積してしまいます。
その結果、出生体重が4kg以上の巨大児になるリスクが高くなります。
巨大児は、分娩時に肩甲難産になったり、新生児仮死になるリスクも高くなります。
2.先天異常のリスク増加
妊娠初期の高血糖は、神経管閉鎖障害(無脳症、二分脊椎症)などの先天異常の発症リスクを高めます。
3.新生児低血糖のリスク増加
出生後、母体からのブドウ糖の供給が止まると、過剰にインスリンを分泌していた新生児は低血糖になりやすくなります。
4.呼吸窮迫症候群のリスク増加
胎児の高インスリン状態により、肺の成熟が遅れ、出生後の呼吸障害につながる可能性があります。
5.肥満や糖尿病のリスク増加
児が巨大児である場合、将来的に肥満や2型糖尿病になりやすくなると指摘されています。
2型糖尿病は、以下の3つの主な要因によって引き起こされる病態です。
*インスリン抵抗性
筋肉や脂肪、肝臓などの末梢組織でインスリンに対する抵抗性が生じ、インスリンの作用が低下する。
*インスリン分泌不全
インスリン抵抗性に対抗してインスリン分泌を増やす必要があるが、膵臓のβ細胞の機能が低下する。
*肝臓での糖新生亢進
肝臓での過剰な糖新生が起こり、血糖値が上昇する。
この3つの要因が複雑に関与し、高血糖を引き起こします。
生活習慣の乱れ(肥満、運動不足、過剰な糖質摂取など)が危険因子となり、加齢とともにインスリン抵抗性や分泌能が低下することで発症します。
遺伝的素因も関与しています。
食事療法、運動療法、経口糖尿病薬やインスリン注射などで治療されますが、合併症予防のため適切な血糖コントロールが重要です。
※妊娠糖尿病のしっかりとした管理が重要なのは、こうした胎児への影響を最小限に抑えるためです。
食事、運動療法とともに、必要に応じてインスリン治療を行うことで、母体の血糖コントロールを適正化する必要があります。
妊娠糖尿病 治るのか
妊娠糖尿病は、妊娠に伴って一時的に発症する病態ですので、出産後には通常治ると考えられています。
しかし、妊娠糖尿病の経験があると将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高くなることが知られています。
出産後の妊娠糖尿病の経過は以下のようになります。
・出産直後
ほとんどの場合、インスリン抵抗性が改善し、血糖値は正常化します。
つまり、一旦は妊娠糖尿病は治ります。
・1~2か月後
約10~20%の人で持続する高血糖が見られ、この時点で2型糖尿病と診断されることがあります。
・数年以内
出産後数年以内に20~50%の人が2型糖尿病を発症すると報告されています。
※つまり、妊娠糖尿病は出産によって一旦は治りますが、その後も血糖値のフォローが重要です。
生活習慣の改善により、将来の2型糖尿病発症リスクを下げることができます。
定期的な診察とともに、食事、運動療法による適正体重の維持が推奨されています。
の経験者は、将来にわたって注意深い経過観察が必要といえるでしょう。
妊娠糖尿病 産後 境界型
妊娠糖尿病の経過観察で、産後に「境界型」と診断される場合があります。
これは以下のような状態を指します。
【境界型の定義】
・空腹時血糖値:100~125mg/dL
・75gOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)
空腹時: 100~125mg/dL
1時間値: 180mg/dL未満
2時間値: 140~199mg/dL
つまり、正常域と糖尿病域の中間の値を示す状態が「境界型」と呼ばれます。
この境界型の人は、以下のようなリスクが高いことが知られています。
・将来的な2型糖尿病発症リスクが高い
・心血管疾患のリスクが高い
・妊娠時の再発リスクが高い
そのため、境界型と診断された場合は、生活習慣の是正が強くすすめられます。
・食事療法(糖質制限など)
・定期的な運動習慣
・適正体重の維持(BMI 25未満)
BMI(体格指数)25未満を目指す具体例を挙げますと、
【女性の場合】
身長155cm、適正体重が55kg以下
身長160cm、適正体重が58kg以下
身長165cm、適正体重が61kg以下
身長170cm、適正体重が65kg以下
【男性の場合】
身長170cm、適正体重が67kg以下
身長175cm、適正体重が71kg以下
身長180cm、適正体重が75kg以下
身長185cm、適正体重が79kg以下
BMIが25を超えると肥満の範疇に入り、生活習慣病のリスクが高まるとされています。
例えば、身長165cmの女性であれば、
61kgまでならBMI22.4でまだ標準体重範囲
62kgになるとBMI22.8で過体重
68kgになるとBMI25.0で肥満
と判定されます。
BMIは簡便な肥満判定指標ですが、加齢に伴う筋肉量の減少なども影響するため、あくまでも目安とされています。
適正体重を維持するためには、運動と食事のバランスを意識することが重要になります。
※このようにコントロールすることで、2型糖尿病を予防し、再び妊娠糖尿病を発症するリスクを下げることができます。
産後は定期的な検査と生活指導が欠かせません。