1.すい臓がんについて
年間3万7千人以上が死亡するすい臓がんは、発見と治療が極めて難しいがんの一つで、死亡率が非常に高いです。
その理由の一つは、初期段階で症状がほとんど現れず、進行してから診断されることが多いためです。
早期発見にはリスクを認識し、適切な対策を講じることが重要です。
特に注意すべきリスク要因として「糖尿病」と「慢性すい炎」があります。
これらを把握し、予防や早期発見に努めましょう。
がんの診断方法や治療法は進化しており、生存率も向上しています。
しかし、すい臓がんの5年生存率は8.%と非常に低いです。これは、
早期発見が困難であることに起因しています。
すい臓は胃の裏側に位置し、他の臓器に囲まれているため、通常のエックス線検査や腹部超音波検査では初期の小さながんを見つけることが難しいです。
進行してからでないと症状が現れないため、早期発見が困難です。
しかし、ステージ0の超早期発見ができれば、5年生存率は85.8%に上昇します。リスク要因や異常のサインを知ることで、早期発見が可能になります。
2.糖尿病とすい臓がん
すい臓は消化液「すい液」と血糖値を調整するインスリンを分泌します。
糖尿病はインスリンの分泌が減少するか効きが悪くなることで血糖値が高くなる病気です。
すい臓がんになると、これらの機能が障害され、血糖値が急に上昇することがあります。
糖尿病患者が急に血糖値が上がった場合や、健康な人が突然糖尿病を発症した場合、すい臓がんが隠れている可能性があります。
糖尿病患者がすい臓がんを発症するリスクは、非糖尿病患者の約2倍です。
糖尿病をきっかけにすい臓がんを早期発見できることもあります。
調査によると、糖尿病をきっかけにがんを発見した場合、約60%が手術可能でした。
血糖値の急激な悪化や突然の糖尿病発症をすい臓がん早期発見のサインとして認識することが重要です。
3.慢性すい炎とすい臓がん
すい液は、炭水化物、タンパク質、脂質を消化しますが、何らかの原因ですい液がすい臓内で活性化し、すい臓自体を溶かす「自己消化」が起こることがあります。
これが「急性すい炎」であり、長期にわたるものが「慢性すい炎」です。
慢性すい炎ではすい臓の細胞が破壊され、線維に置き換わり、機能を失います。
慢性すい炎患者はすい臓がんのリスクが高く、特に発症後2年以内が危険です。
また、慢性すい炎のある人は、すい臓がんのリスクが13倍以上に上昇するとの報告もあります。
適切な治療と予防が重要です。
4.慢性すい炎の原因と症状
慢性すい炎の主な原因は「アルコール」です。
飲酒量が多いほど発症しやすくなります。
女性には原因不明の特発性慢性すい炎も少なくありません。
初期症状は腹痛で、進行すると消化不良による下痢や体重減少、糖尿病などが発生します。
治療は生活習慣の改善が中心で、禁酒、脂肪の多い食事を控える、禁煙が重要です。
5.すい臓がんのリスク要因
すい臓がんのリスク要因には、糖尿病や慢性すい炎の他に、家族歴や肥満、喫煙、大量飲酒などがあります。
特に家族にすい臓がん患者がいる場合はリスクが高くなります。
6.すい臓がんの早期発見のための検査
リスク要因が複数ある人や糖尿病患者は、腹部超音波検査などを受けることが推奨されます。
最近注目されているIPMN(すい管内乳頭粘液性腫瘍)は、すい臓がんの早期発見につながる可能性があります。
IPMN自体はがんではありませんが、がんに変化することがあります。
7.すい臓がんの症状
すい臓がんは初期には症状がほとんどありませんが、進行すると腹痛、食欲不振、黄疸、白色便、体重減少、背中の痛みなどが現れます。
気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう。
すい臓がん 最新治療
1.すい臓がんの治療法選択肢の増加
年間3万7千人以上が死亡するすい臓がんに対する最も効果的な治療法は手術です。
しかし、がんが発見された時点で進行していることが多く、手術ができない場合も少なくありません。
近年では、抗がん剤の進歩により、手術が不可能だった症例でも、抗がん剤でがんを縮小させてから手術を行う「コンバージョン手術」が増えています。
すい臓は他の臓器に囲まれているため、手術は大規模なものになります。
さらに、すい臓がんは早期に他の臓器や血管、リンパ節に転移する傾向があります。
このため、転移や再発を防ぐことも重要な課題です。
2.すい臓がんの最新治療ガイドライン
最新の診療ガイドラインでは、すい臓がんのステージ(進行度)は0期から4期に分類されます。
0期から1期、2期の一部は通常手術が可能な状態です。
一方、3期の一部と4期は進行しており手術ができません。
その中間の2期の一部と3期の一部は手術可能か否かの境界線上にあります。
0期は手術のみで治療が完了しますが、1期と2期で手術可能と判断された場合、薬物治療を行った後に手術を行い、さらに手術後にも薬物治療を続けます。
2期と3期で手術可能境界と判断された場合、薬物療法や放射線治療を行い再評価し、手術可能と判断されれば手術を行います。
3期や4期で手術が不可能とされた場合は薬物治療が主な治療法となります。
新しいガイドラインでは、手術が不可能と判断された人でも、放射線や薬物療法後に再評価して手術を検討するという方針が追加されました。
すい臓がんは再発しやすいため、手術の実施には慎重な判断が必要ですが、抗がん剤や放射線治療の進歩により、手術が可能になるケースも出てきました。
3.すい臓がんの手術方法
すい臓がん治療の基本は手術です。
すい臓は「すい頭部」「すい体部」「すい尾部」の3つの部位に分かれており、がんが発生した部位によって手術法が異なります。
・すい体部、すい尾部
にがんがある場合、両方と「ひ臓」などを切除します。
・すい頭部
にがんがある場合、「すい頭部」と「十二指腸・胆管」などを切除します。
・すい臓全体にがんが広がっている場合は、すい臓と十二指腸・胆管など周囲の臓器を摘出します。
4.すい臓がん専門医や専門施設の探し方
すい臓がんの手術は高度な技術を要するため、すい臓がん専門医や手術件数の多い医療機関での治療が推奨されます。
専門医や専門施設は、日本膵臓学会や日本肝胆膵外科学会のウェブサイトで調べることができます。
・日本膵臓学会
https://www.suizou.org/
・日本肝胆膵外科学会
https://www.jshbps.jp/
5.手術と抗がん剤治療の組み合わせ
すい臓がんは手術後に再発することが多いため、手術の前後に抗がん剤治療を行うことが推奨されます。
手術前に抗がん剤を使用することで、がんを小さくしたり微小ながんを取り除いたりし、手術後に抗がん剤を使うことで再発率を低下させ生存率を向上させることができます。
6.コンバージョン手術
手術が不可能と判断された場合でも、抗がん剤や放射線療法によりがんが縮小すれば、手術が可能になるケースが増えています。
これをコンバージョン手術と呼びます。
抗がん剤の進歩により、コンバージョン手術を受けられる患者が増えています。
7.抗がん剤治療の詳細
以前は単独で使用されていた抗がん剤も、現在では複数の抗がん剤を併用する治療法が登場しています。
これにより、がんによる痛みや倦怠感を和らげ、患者が元気で過ごせる期間が延びています。
8.手術前の抗がん剤
手術前には、S-1とゲムシタビンを併用します。
S-1は内服薬で、1日2回の内服を2週間続けて1週間休みとするコースを2回程度繰り返します。
ゲムシタビンは点滴で週に1回、30分の点滴を2週間続けて1週間休みとするコースを2回程度繰り返します。
9.手術後の抗がん剤
手術後には通常S-1が使われますが、副作用がある場合はゲムシタビンが使用されます。
10.ステージ4の抗がん剤
ステージ4では、ゲムシタビンとナブ・パクリタキセルの併用が主流ですが、「フォルフィリノックス」という4種類の薬剤を併用する場合もあります。
11.新しい抗がん剤
近年では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しい薬も登場しています。
分子標的薬は、がん細胞の増殖に関与するたんぱく質を標的とする薬であり、免疫チェックポイント阻害薬は免疫細胞の働きを正常に戻すことでがんを攻撃する薬です。
これらの新薬は、すい臓がんに対しても一定の効果が期待されており、治療の選択肢が増えています。
◎分子標的薬
・Olaparib (リムパーザ)
BRCA1/2遺伝子変異を持つ患者さんに対して使用されます。
DNAの修復を阻害することでがん細胞の増殖を抑制します。
・Erlotinib (タルセバ)
EGFR (上皮成長因子受容体) を標的とし、がん細胞の増殖シグナルを遮断します。
・Sunitinib (スーテント)
複数のチロシンキナーゼを阻害し、腫瘍の血管新生を抑制します。
◎免疫チェックポイント阻害薬
・Pembrolizumab (キイトルーダ)
PD-1阻害薬で、MSI-H (高頻度マイクロサテライト不安定性) を持つすい臓がんに対して使用が承認されています。
・Nivolumab (オプジーボ)
同じくPD-1阻害薬で、一部のすい臓がん患者さんで効果が見られています。
・Ipilimumab (ヤーボイ)
CTLA-4阻害薬で、他の免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が研究されています。
これらの新しい薬剤は、従来の化学療法と比べてより標的特異的であり、副作用が軽減される可能性があります。
しかし、すい臓がんは依然として治療が困難ながん種の一つであり、これらの薬剤の効果は限定的な場合もあります。
現在も多くの臨床試験が進行中で、新たな分子標的や免疫療法のアプローチが研究されています。
例えば、CAR-T細胞療法やがんワクチンなどの新しい免疫療法も注目されています。
これらの治療法の有効性や適応は個々の患者さんの状況によって異なるため、担当医との相談が重要です。
また、新しい治療法の開発は日々進んでいるため、最新の情報を医療機関で確認することをおすすめします。


