肝内胆管がん(intrahepatic cholangiocarcinoma、略称:ICC)は、肝臓内に発生する胆管がんの一種です。
以下に、肝内胆管がんの一般的な症状をいくつか挙げてみますが、これらの症状が必ずしも全て現れるわけではありません。
また、これらの症状が他の疾患とも重なり得るため、症状が見られた場合は早めに医師の診察を受けることが重要です。
1.腹痛
肝内胆管がんが進行すると、腹痛が生じることがあります。腹痛の程度や部位は個人差があります。
2.腹部腫脹
肝内胆管がんが進行すると、腹水(腹部に溜まる水分)が引き起こされ、腹部が膨れ上がることがあります。
3.黄疸
肝内胆管がんが進行すると、肝臓や胆道に影響を与え、黄疸(皮膚や白目が黄色く変色する症状)が現れることがあります。
4.食欲不振、体重減少
癌が進行すると、消化器官に対する影響が生じ、食欲不振や体重減少が見られることがあります。
5.疲労感
癌が進行すると、体力を消耗しやすく、全身的な疲労感が現れることがあります。
6.発熱
進行したがんが感染を引き起こすことがあり、それにより発熱が生じることがあります。
7.白血球減少
がんが骨髄などの造血器系統に影響を与えることがあり、白血球減少が見られることがあります。
※肝内胆管がんは初期段階では症状がほとんど現れないことがあり、進行してから症状が明らかになることがあります。
このため、リスクファクターがある場合や不明瞭な症状がある場合は、早期に専門医の診察を受けることが大切です。
診断は画像検査、生検、血液検査などを含みます。
治療法には手術、化学療法、放射線療法などがありますが、治療の選択肢は患者の具体的な状態によって異なります。
肝内胆管癌 原因
肝内胆管がんの原因は複雑で明確には分かっていません。
しかし、一般的には以下のようなリスクファクターが関与していると考えられています。
1.肝硬変
肝硬変は肝内胆管がんのリスクを増加させる要因の一つです。
肝硬変は肝臓が慢性的な炎症や損傷により瘢痕組織で置き換わる病態で、この状態ががんの発生を促進する可能性があります。
2.胆道の慢性炎症
胆道が慢性的な炎症に晒されることが、肝内胆管がんのリスクを高めると考えられています。
慢性胆道炎や原発性硬化性胆管炎がこれに該当します。
3.感染
胆道に寄生する感染症もリスクとされています。
肝内胆管がんの一因として、肝吸虫(クランプシア)感染が挙げられます。
4.胆石症
長期にわたる胆石症(胆石が胆嚢や胆道に存在する状態)は、胆道の損傷を引き起こし、がんの発生リスクを高める可能性があります。
5.先天性胆道拡張異常症
胆道の先天的な異常がある場合、肝内胆管がんの発生リスクが増加することがあります。
6.アルコールの摂取
長期にわたる大量のアルコール摂取は、肝臓に対する損傷を引き起こし、肝内胆管がんのリスクを増加させる可能性があります。
7.肝病変との関連
特定の肝病変や肝疾患(例:肝脂肪性肝炎、肝炎ウイルス感染)も、肝内胆管がんの発生リスクに影響を与える可能性があります。
※これらの要因が相互に影響し合い、肝内胆管がんが発生するリスクが高まります。
ただし、これらの要因がすべての患者に当てはまるわけではなく、一般的な傾向に過ぎません。
発症のメカニズムはまだ完全に理解されていないため、研究が進んでいくことで追加の要因や新たな理解が得られる可能性があります。
肝内胆管癌 治療
肝内胆管がんの治療は、がんのステージ、患者の一般的な健康状態、および他の個別の要因に基づいて決定されます。
以下に、一般的な治療法をいくつか紹介しますが、これは個別の症例によって異なる可能性があります。
1.手術
初期の肝内胆管がんに対しては、腫瘍摘出のための手術が最も一般的です。
手術が適切な場合、肝臓の部分切除(肝切除)や、場合によっては肝臓全体の摘出(肝全摘)が行われることがあります。
ただし、手術が適さない場合もあります。
2.肝動脈塞栓療法(TACE)
進行した肝内胆管がんに対しては、TACEと呼ばれる治療法が使われることがあります。
この手法では、がんに対して直接抗がん剤や放射線を送り込むことが可能です。
3.経皮的移植性樹状細胞結合剤療法(PEI)
小さな肝内胆管がんの治療には、経皮的移植性樹状細胞結合剤療法(PEI)と呼ばれる方法が使用されることがあります。
この方法では、腫瘍にアルコールを注入してがん細胞を破壊することが狙いです。
4.放射線療法
放射線療法は、がん細胞を破壊するために放射線を使用する治療法です。
肝内胆管がんに対しては、外部照射や内部放射線療法(内照射療法)が行われることがあります。
5.化学療法
化学療法は、がん細胞を破壊するために抗がん剤を使用する治療法です。
ただし、肝内胆管がんに対しては効果が限られていることがあり、他の治療法と組み合わせて使用されることがあります。
6.標的療法
特定のがん細胞に対して効果的な標的療法薬が開発されています。
これらの薬物は、がん細胞の成長を抑制するか、がん細胞を破壊することが期待されています。
※治療の選択は患者の具体的な状態に基づいて行われるべきであり、多くの場合、複数の治療法を組み合わせることが検討されます。
専門のがん治療医と相談し、病気の進行状況や患者の個別の状態に基づいて最適な治療プランを策定することが重要です。
肝内胆管癌 最新治療
肝内胆管がんの最新治療については、以下のような情報があります。
・外科手術
唯一、根治が見込める治療法ですが、手術が困難な場合や再発した場合には、薬物療法や放射線治療が適用されます。
・薬物療法
2022年に「肝内胆管癌診療ガイドライン2021」が刊行され、肝内胆管がんに対する化学療法や分子標的薬の選択基準が示されました。
現在、肝内胆管がんに有効な分子標的薬としては、レジャフェニブやイボルニブなどがあります。
レジャフェニブ
レジャフェニブは、がん細胞の増殖や分化に関与するタンパク質であるRET(再配置型エンドチルチン)の働きを阻害することで、がんの進行を抑えます。
レジャフェニブは、2020年にアメリカ食品医薬品局(FDA)から承認を受けた新しい薬で、日本では2021年に承認申請が行われました。
レジャフェニブは、RET遺伝子の変異や転座を持つがん患者に対して、高い有効性と安全性を示すことが臨床試験で確認されています。
レジャフェニブは、経口で服用する錠剤の形で投与されます。
レジャフェニブの主な副作用としては、高血圧、疲労、下痢、発疹などが報告されています。
レジャフェニブは、RETに特異的に作用することで、他の分子標的薬に比べて副作用の発生率が低いという特徴があります。
イボルニブ
イボルニブは、B細胞性腫瘍の治療に効果的な分子標的薬で、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)という酵素を阻害することで、がん細胞の増殖や分化を抑えます。
イボルニブは、慢性リンパ性白血病(CLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、ワルデンストロームマクログロブリン血症(WM)などのB細胞性血液がんに対して、高い有効性と安全性を示すことが臨床試験で確認されています。
イボルニブは、経口で服用する錠剤の形で投与されます。
イボルニブの主な副作用としては、出血、感染、貧血、下痢、発疹、関節痛などが報告されています。
イボルニブは、2013年にアメリカ食品医薬品局(FDA)から承認を受けた新しい薬で、日本では2014年に承認されました。
イボルニブは、イムブルビカという商品名で販売されています。
・放射線治療
重粒子線治療が保険適用となりました。
重粒子線治療は、肝実質や消化管への線量を低減し、腫瘍に根治線量を投与できるという特徴があります。
重粒子線治療の適応条件は、外科的切除が困難で、腫瘍径が10cm以下、肝臓内に限局している、肝機能が良好であるなどです。
※以上のように、肝内胆管がんの最新治療は、手術、薬物療法、放射線治療の3つの柱で構成されています。
肝内胆管がんの治療法は、個々の症例に応じて選択されるため、医師とよく相談することが大切です。
肝内胆管癌 予後
肝内胆管がんの予後は、がんのステージや治療法によって異なります。
ステージは、がんの大きさや広がり、リンパ節や遠隔臓器への転移の有無などによって決められます。
一般的に、ステージが進むほど予後は悪くなります。
肝内胆管がんの生存率は、国や地域、年代、性別、研究方法などによって異なるため、正確な数値はわかりません。
しかし、いくつかの研究によると、肝内胆管がんの5年生存率は、
ステージIで40~50%、
ステージIIで30~40%、
ステージIIIで20~30%、
ステージIVで10%未満
と推定されています。
肝内胆管がんの予後に影響する因子としては、がんのステージや治療法のほかに、肝機能や全身状態、合併症や感染などがあります。
また、最近の研究では、肝内胆管がんの発症機序に関与する遺伝子や分子の異常が、予後の予測に役立つ可能性が示されています。
※以上のように、肝内胆管がんの予後は、様々な要因によって変わります。
生存率はあくまでも統計的な目安であり、個人の状態や治療効果によって大きく異なることがあります。
肝内胆管がんの治療法や予後については、医師とよく相談することが大切です。