橋本病は、慢性的な甲状腺の病気で、自己免疫疾患の一種です。
橋本病の主な症状は、
・体重増加
・疲労感
・constipation(便秘)
・かゆみ
・貧血
・冷え症
・月経不順
などがあります。原因は自己免疫機構の異常により、甲状腺細胞が破壊されることで、甲状腺ホルモンが低下することにあります。
橋本病は日本では難病に指定されています。
難病指定されている理由は、
1. 原因が不明で治療方法が確立していない
2. 症状が慢性的で経過が長期にわたる
3. 身体的・精神的苦痛が大きい
4. 療養生活に著しい制約がある
などから、橋本病は難病の要件を満たしているためです。
※難病指定されることで、医療費の公費負担や各種支援を受けられるようになります。
適切な治療を継続的に受けることが重要視されています。
橋本病の治療については、主に以下の点が重要となります。
1.甲状腺ホルモン補充療法
橋本病では甲状腺ホルモンが不足するため、人工的に合成された甲状腺ホルモン製剤を服用して補充します。
ホルモン量を適切に調整することで、症状のコントロールを図ります。
2.定期的な検査
血液検査で甲状腺ホルモン値を測定し、適切なホルモン補充量を決定します。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)値、遊離T4(FT4)値などを参考にします。
○TSH(甲状腺刺激ホルモン)値
・脳下垂体前葉から分泌されるホルモン
・甲状腺にホルモン分泌を促す働きがある
・TSH値が高いと甲状腺機能低下症、低いと甲状腺機能亢進症を示す
・橋本病では通常TSH値が高値を示す
○遊離T4(FT4)値
・甲状腺ホルモンの一種であるT4(テトライオドサイロニン)の活性型
・血中に存在する遊離(タンパク質と結合していない)T4の濃度
・FT4値が低いと甲状腺機能低下症、高いと甲状腺機能亢進症を示す
・橋本病の経過で徐々にFT4値は低下していく
橋本病の診断と治療経過の判断では、TSHとFT4の両者を参考にします。
・TSHが高く、FT4が低い場合は典型的な橋本病の像
・治療ではFT4を正常範囲に維持するよう、適切な量の甲状腺ホルモン剤を投与
・TSH、FT4の値から過剰治療や過少治療がないか定期的にモニタリング
このようにTSH値とFT4値は、橋本病の診断、治療量の調整、経過観察に非常に重要な指標となります。
3.生活習慣の改善
禁煙、適度な運動、バランスの取れた食事など、生活習慣の改善も重要です。
ストレス過多にも注意が必要です。
4.合併症の治療
橋本病では、関節痛、皮膚病変、不整脈などの合併症が起こる可能性があるため、合併症に対する治療も行う必要があります。
5.定期的な経過観察
橋本病は慢性の経過をたどるため、長期的な通院と経過観察が不可欠です。
症状や検査値の変化に応じて、治療内容の調整を行います。
※治療により症状はコントロール可能ですが、根本的な治療法はなく、生涯にわたる経過観察と対症療法が必要とされます。
亜急性甲状腺炎 治療
亜急性甲状腺炎は、ウイルス感染などが引き金となって起こる一時的な甲状腺の炎症です。
主な症状は前頚部の疼痛、発熱、倦怠感などです。治療については以下の点が重要です。
1.対症療法
解熱鎮痛剤の投与により、発熱や疼痛を和らげます。
非ステロイド性抗炎症薬が良く用いられます。
2.甲状腺ホルモン補充療法
発症初期は一過性の甲状腺中毒症状(動悸、発汗など)を呈しますが、やがて一時的な甲状腺機能低下症となります。
この時期には人工的な甲状腺ホルモン剤の補充が必要となる場合があります。
3.ステロイド治療
重症例や遷延例では、プレドニゾロンなどの経口ステロイド剤の投与が行われることがあります。
炎症を抑え、症状の改善を図ります。
4.安静と経過観察
亜急性甲状腺炎は自己免疫疾患ではなく、通常数か月で自然に炎症は沈静化します。
安静と定期的な血液検査による経過観察が重要です。
5.再発予防
一部の患者では再発する可能性があります。
ウイルス感染の予防や、甲状腺への過度な圧迫を避けることが推奨されます。
※適切な対症療法と経過観察を行えば、ほとんどの患者は数か月で自然に回復するものの、一時的な甲状腺機能異常への対応が必要な場合があります。
先天性甲状腺機能低下症 治療
先天性甲状腺機能低下症は、新生児に見られる先天性の甲状腺ホルモン欠乏症です。
早期発見と適切な治療が非常に重要とされています。
治療方針は以下の通りです。
1.早期発見
多くの国で新生児マス・スクリーニング検査により、生後数日で甲状腺機能検査を行い、異常を発見します。
2.甲状腺ホルモン補充療法
発見次第、速やかに合成甲状腺ホルモン剤の内服治療を開始します。
レボチロキシンナトリウムが汎用されます。
3.慎重な投与量調整
血中甲状腺ホルモン値を定期的に測定し、成長に合わせて適切な量を調整していきます。
過剰投与は避ける必要があります。
4.原因検索と対症療法
先天異常や一過性病因など、原因を特定し、合併症例には別途治療を行います。
5.継続的な経過観察
思春期、妊娠期には甲状腺ホルモン需要が変化するため、生涯にわたる定期受診と投与量の調整が必須となります。
6.支援体制の確保
知的障害やその他の合併症のリスクがあるため、療育、就学支援なども重要となります。
※早期発見と適切な治療を受けることで、正常の身体的・知的発達が期待できます。
欠かすことができない継続的な治療です。
単純性甲状腺腫
単純性甲状腺腫とは、甲状腺の腫れ物のことで、比較的よくみられる良性の疾患です。
主な特徴は以下の通りです。
1.原因
原因は必ずしも明らかではありませんが、ヨウ素欠乏、自己免疫異常、遺伝的素因などが関与していると考えられています。
2.症状
甲状腺の一部または全体が腫れ上がり、前頚部に腫瘤を形成します。
大きくなると嚥下困難や呼吸困難を生じる可能性があります。
ただし、機能的には通常、甲状腺ホルモンの分泌は正常です。
3.診断
触診による腫瘤の確認に加え、血液検査(TSH、FT4など)で機能状態を評価します。
超音波検査や各種画像検査でより詳細な評価を行います。
4.治療
小さな単純性腫瘍であれば経過観察で十分な場合があります。
大きくなった場合や合併症がある場合には、手術による腫瘍の全摘または亜全摘を行うことがあります。
甲状腺機能異常がある場合は、薬物治療を併用することもあります。
5.経過
単純性腫瘍の悪性化率は低いですが、定期的な経過観察が重要です。
甲状腺機能や呼吸困難などの症状の変化に注意を払う必要があります。
※良性の病変ではありますが、腫瘍の大きさや合併症によっては手術を要する場合もあり、注意深い経過観察が不可欠です。
単純性甲状腺腫に伴う主な合併症については、以下のようなものがあげられます。
1.嚥下障害
甲状腺腫が大きくなり、食道を圧迫すると、飲み込みづらくなる嚥下障害が起こる可能性があります。
2.呼吸障害
甲状腺腫による気管の圧迫で、呼吸困難を引き起こすこともあります。
大きな腫瘍では緊急の対応が必要な場合もあります。
3.声帯麻痺
腫瘍が反回神経を圧迫すると、声帯麻痺による嗄声(させい=かすれた声)が出現することがあります。
4.甲状腺機能異常
腫瘍による甲状腺組織の破壊が進行すると、機能低下ないし亢進を引き起こす可能性があります。
5.出血、うっ血
甲状腺腫内での出血や静脈うっ血により、急に腫瘤が増大し、呼吸困難などの症状が増悪するリスクがあります。
6.悪性化
単純性腫瘍から甲状腺癌に移行するリスクは低いですが、完全に否定できません。
※このように、単純性でも大きな甲状腺腫では様々な合併症が起こりうるため、定期的な経過観察が重要になります。
症状が増悪した場合は、速やかに専門医の診療を受けることが推奨されます。