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史上最悪の心理学実験とは

1930代アメリカで怖ろしい人体実験が行われた。対象となったのは身寄りのない孤児たち。子供たちに言葉によって精神的に追い詰めてきつ音にしようとするものだった。

指揮したのは心理学者ウェンデル・ジョンソン、きつ音の原因について自分の仮説を実証するために行われた。実験が進むにつれて子供たちに異常な行動が現れた。

言葉を発しようとする時に目をパチパチさせたり、壁に頭をぶつけたりした。ジョンソンはただ孤児というだけで、子供たちを実験室のネズミ同然に扱った。

しかもジョンソンは実験の目的を最後まで子供たちに話すことはなかった。そして社会からの避難を怖れ論文を自ら葬った。その実験はいつしかモンスター・スタディーと呼ばれるようになった。

きつ音治療の新学説
1906年ウェンデル・ジョンソンはカンザス州の農家の次男として生まれる。小学生の時、担任の先生からきつ音だと指摘された。きつ音とは、言葉が詰まったりスムーズに発話できない症状。

ジョンソンは父親に連れられてカンザス州の病院を回ったが彼の言葉は滑らかにならなかった。きつ音はアメリカでは大きな問題としてみられている。

ディベート社会のアメリカでは話すことで自分の主張を相手に認めさせる。一方きつ音があるとバカにされ差別の対象にもなるという。

高校生になったジョンソンは会話のいらないスポーツに打ち込む。将来はメジャーリーグを目指した。しかし利き手の右手を怪我して夢を諦めた。

1926年アイオワ大学英語学科に入学。生活費を得るために、言語心理学者リー・トラヴィスのアシスタントになった。トラヴィスはきつ音は脳に何らかの原因があると考えていた。

その説を実証するためにきつ音のあるジョンソンが実験台となる。電極を頭に付けられ脳波を測定、催眠術を掛けられ朗読、利き腕を石膏で固定してバトミントンなどの実験をさせられた。

しかしジョンソンのきつ音が改善されることはなく、トラヴィスの説に疑問を抱くようになる。きつ音の原因を自ら突き止めようと、言語心理学を勉強して博士号を取得した。

1934年きつ音についての1つの調査を始める。きつ音の子供とその両親46組の面接調査を開始、そこである共通点に気がつく。それは子供の言葉の繰り返しを親がその都度指摘すること。

そして指摘されてからきつ音がひどくなったこと。ジョンソンも教師からきつ音を注意されたから酷くなったことを思い出した。

1938年論文「きつ音行動における評価の役割」を学会に発表。親が子供にネガティブな評価をすると子供が反応しきつ音になる可能性があると。後に診断起因説と呼ばれる。

人体実験
当時はきつ音の原因は脳にあるというのが主流でジョンソンの説は相手にされなかった。ジョンソンは実験で証明しようと思い立つ。

選んだのがアイオワ州ダベンポートの孤児院。自説を強固なものにするために、実証データを得たいと思ったのだろう。それには子供たちが24時間同じ所で暮らす孤児院が理想的な場所だった。

きつ音だと意識させることで子供をきつ音にすることができたら、自説が正しいと証明できる。ジョンソンはアイオワ大学の大学院生を呼んだ。

1939年1月17日アイオワ大学の大学院生を孤児院に派遣、孤児院には実験の目的を一切説明しなかった。

大学院生は256人にから22人を選んだ。きつ音あり10人きつ音なし12人。それらを4つのグループに分けた。

1Aきつ音あり ポジティブ評価
1Bきつ音あり ネガティブ評価
2Aきつ音なし ネガティブ評価
3Bきつ音なし ポジティブ評価

この実験の1番の狙いは2A、きつ音のない子供にあなたはきつ音になりかけている、きつ音だとネガティブな評価を与え続けたらどうなるのか、きつ音になれば診断起因説が証明できる。

5か月に及ぶ実験が始まった。心理学的に計算された言葉を使って子供たちにきつ音を意識させた。「評価的ラベル付け」というものでそう思い込ませるための一種の暗示。

子供たちは話すことを怖がるようになり沈黙する。沈黙はきつ音に追い込まれていく最初の症状の1つ。そして実験の目的を知らせないまま、教師や寮母にもきつ音を指摘させるようにした。

きつ音のラベル付けをした全員が話すことに障害を生じるようになった。

衝撃のスキャンダル
しかし話し方の流暢さが悪くなったのは。6人中2人だけ。4人は変化なしまたは改善した。言語聴覚士によるきつ音の判定は、6人全員きつ音ではない。

この研究データから得られるものは何もない。ジョンソンは自分の理論が正しいという何らかの証拠が得られると思っていたかもしれないが、診断起因説は否定された。

にもかかわらずジョンソンは実験データを黙殺し、自分の理論に固執続けた。自分の理論に自己陶酔していたかのようだ。そして実験データを基にした大学院生の論文を発表しなかった。

ジョンソンには人道上の罪、科学者としての罪があるが、1950年アメリカ言語聴覚協会会長に就任。1965年ウェンデル・ジョンソン死去。

診断起因説は

1960年代 検証
1990年代 脳科学
2010年代 遺伝子科学

により、力を失った。

モンスター・スタディーが隠蔽されたために、心理学の分野では人体実験への警告が遅れてしまった。公表されていれば、その後の不幸な実験は防げたかもしれない。

1972年アメリカ心理学会「人間の参加者を伴う研究行為における倫理綱領」策定

被験者の参加意思に影響を与えることが予想される実験内容や方法などを知らせることが義務付けられた。

1974年第三者を交えた治験審査委員会の設立(国家研究法)事前に実験計画を審査すること。

1983年対象年齢の理由明確化(連邦行政命令集)18歳未満の子供を使って実験する場合、その理由明らかにすることが法律で定められた。

2002年データの秘匿厳禁(アメリカ心理学会倫理規定)実験結果はけして隠してはならないと定めた。