劇症型溶連菌感染症は、溶連菌によって引き起こされる重篤な感染症です。
劇症型溶連菌感染症は、皮膚が壊死することもあります。
劇症型溶連菌感染症は「人食いバクテリア」とも呼ばれ、手足の壊死を引き起こして死に至ることもあります。
溶連菌は、健康な人の喉や皮膚に存在する常在菌です。
喉に溶連菌を持っている子供は多く、3割程度といわれています。
症状がない人を保菌者、菌が増殖して発熱や咽頭痛などの症状が出た人を感染者と呼びます。
主な症状は以下の通りです。
【初期症状】
・高熱(39度以上)
・強い倦怠感
・筋肉痛
・頭痛
【全身症状】
・せき、咽頭痛
・発疹
・下痢、嘔吐
・痙攣発作
【局所症状】
・皮膚の発赤、腫れ、水疱形成(蜂窩織炎など)
蜂窩織炎は、患部の皮膚に発赤、痛み、圧痛がみられるほか、しばしば皮膚を触ると熱く感じたり、一部の人では発熱や悪寒が生じたり、より重篤な症状が現れたりすることもあります。
・筋肉の激痛、腫脹(筋膜炎など)
筋膜炎とは、筋肉の使い過ぎによって筋膜(筋肉を覆う薄い膜)が水分を失って硬くなり、柔軟性を失った状態をいいます。
・関節の激痛、腫脹(化膿性関節炎など)
化膿性関節炎は、関節内に細菌が侵入して化膿する病気です。
※初期には風邪症状に見えますが、急激に悪化し、発熱、筋肉痛などの全身症状や局所の激しい痛みが出現します。
最悪の場合、敗血症や多臓器不全に陥り命に関わる危険な病態となります。
高熱や強い症状がある場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。早期発見と適切な抗菌薬治療が重要となります。
劇症型溶連菌感染症 原因
劇症型溶連菌感染症の原因は、A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)という細菌が引き起こします。
この溶連菌は通常、上気道炎や皮膚感染症の原因菌としてよく知られていますが、特に毒素産生能が強い一部の株が劇症型の感染症を引き起こします。
具体的には、以下の2つの主な毒素が重症化に関与していると考えられています。
1. ストレプトリシンO(SLO)
・溶連菌が産生する主要な毒素
・赤血球を溶血させ、また各種の細胞に対する細胞傷害作用がある
2. ストレプトリシンO関連タンパク質(SPN)
SLOと同様の溶血活性と細胞傷害活性を持つ
※これらの毒素が過剰に産生されると、細胞や組織が大量に破壊され、全身に強い炎症反応が起こり、重篤な病態に進展します。
また、溶連菌の M蛋白などの病原因子も、免疫応答を回避し、菌が増殖しやすい環境をつくる働きがあると考えられています。
このように溶連菌の産生する毒素と病原因子の相乗効果によって、劇症化が起こるとされています。
劇症型溶連菌感染症 治療
劇症型溶連菌感染症の治療については、以下の点が重要となります。
【抗菌薬治療】
早期からの適切な抗菌薬治療が最も重要です。
・ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬が第一選択
・初期には点滴による大量投与が行われる
・効果が不十分な場合は、クリンダマイシンやリネゾリドなどの併用も
【救命治療】
全身管理が不可欠です。
・呼吸、循環管理(人工呼吸器、昇圧剤など)
・解熱、補液
・必要に応じて血液浄化療法(血液透析など)
【外科的治療】
局所の重症化した感染巣に対しては、外科的なドレナージや壊死組織の除去が必要となる場合があります。
【免疫グロブリン製剤】
溶連菌に対する免疫グロブリンの補充を目的に、ときに免疫グロブリン製剤の投与が行われます。
【ステロイド薬】
過剰な全身性の炎症反応を抑えるため、ステロイド薬の使用が検討されることもあります。
入院して集中治療を受けながら、抗菌薬をはじめとする種々の治療がしっかりと組み合わされることが重要です。
しかし、劇症型では致死率が高く、迅速な診断と治療開始が肝心です。
劇症型溶連菌感染症 致死率
劇症型溶連菌感染症の致死率については、以下のようになっています。
一般的に、劇症型溶連菌感染症の致死率は20~60%程度と極めて高い数値が報告されています。
具体的には、
・蜂窩織炎型の場合、致死率は30~40%
・筋膜炎型の場合、致死率は20~80%程度
・菌血症を伴う劇症型の場合、致死率は30~70%
と、感染が局所に留まる場合よりも、菌血症を起こすような全身性の感染症になると致死率が高くなる傾向にあります。
菌血症は、血液中に細菌が存在する状態のことです。
通常、細菌は血液中には存在しませんが、何らかの原因で侵入すると菌血症を引き起こします。
また、基礎疾患のある方、高齢者、小児では致死率がさらに高くなる可能性があります。
※早期発見と迅速な治療介入が行われれば予後は良くなりますが、発症から適切な治療が開始されるまでの時間が遅れると、致死率は急激に上昇するとされています。
このように劇症型溶連菌感染症は非常に予後不良な疾患であり、発症した際の早期診断と集中治療の開始が極めて重要となります。
劇症型溶連菌感染症 予防
劇症型溶連菌感染症の予防対策としては、以下の点が重要です。
【一般的な予防策】
・手洗いの徹底
・咳エチケットの励行
・溶連菌感染者との接触を避ける
・感染リスクが高い場合はマスク着用
・溶連菌感染の既往がある場合は注意が必要
【リスク群への予防策】
・基礎疾患がある方、高齢者、小児は特に注意
・免疫抑制状態の方は溶連菌感染リスクが高い
・入院患者は医療関連感染に注意が必要
【予防的抗菌薬投与】
・溶連菌感染の既往がある方が手術を受ける際
・院内集団感染が発生した場合の周囲の患者
・上記のようなハイリスク状況下での予防投与が検討される
【ワクチン接種】
・現状、劇症型を予防できるワクチンは開発中
・一部の国で溶連菌による侵襲性感染症を予防するワクチンが使用可能
溶連菌による侵襲性感染症を予防するワクチンについて、具体的な情報をお伝えします。
現在、このようなワクチンが承認されているのは、主に以下の国々です。
【米国】
・ワクチン名: PrevnarやPneumovax
・小児および65歳以上の高齢者を対象とした23価肺炎球菌ワクチン
・溶連菌のうち一部のタイプに対する予防効果あり
【イギリス、カナダ、オーストラリアなど】
・ワクチン名: Nimenrix、Menveo
・小児を対象としたA群溶血性レンサ球菌(溶連菌)4価結合体ワクチン
・侵襲性溶連菌感染症の一部を予防できる
【ベルギー、オランダ、スペインなど】
・ワクチン名: Bexsero
・A群溶血性レンサ球菌b株に対する4価メニンゴコッカスワクチン
・侵襲性溶連菌b株感染症に対する予防効果
このように、完全な劇症型溶連菌感染症を予防できるワクチンは未だありませんが、一部の国では溶連菌による重症感染症の予防を目的としたワクチンが導入されています。
ただし、対象株が限られていることが課題です。
今後、さらに有効なワクチンの開発が期待されています。
※基本は手洗い等の一般的予防策が重要ですが、特にハイリスク群では予防的な対策を講じる必要があります。
今後、有効なワクチン開発が進めば、さらなる予防対策が期待できます。
早期発見と適切な治療も予後改善には欠かせません。